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最高裁判所第二小法廷 昭和52年(あ)1245号 決定 1978年5月29日

本籍・住居

広島県竹原市忠海町五四〇五番地

会社役員

吉田徳成

昭和四年一月一八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五二年六月九日広島高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人鍵尾豪雄の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 栗本一夫 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 本林譲)

○ 昭和五二年(あ)第一二四五号

被告人 吉田徳成

弁護人鍵尾豪雄の上告趣意(昭和五二年八月八日付)

第一点 刑事訴訟法第四一一条第一号、第三号により、原判決破棄の裁判を求める。

一、原審は、推計課税方法を採用し、資産増減法によつて被告人の課税所得金額並に税額とを認定された。

然しながら推計課税の方法が合理的であるためには、推計の基礎となる間接資料の数額が正確であることが前提条件である。ところが原審は、その間接資料の数額を誤認している。

(1) 福徳生野支店の普通預金(口座番号五四八九三)について。

被告人の妻美智子は、かねてからスタンドバー「旅路」および洋酒喫茶「いずみ」を経営していたものであるが、福徳生野支店の普通預金(口座番号五四八九三)の預金口座の肩書には、美智子経営にかかる「旅路」の名称が明記されており、この預金は一見して美智子の営業収入を預金したものと認められるのに、一審並に原審はいずれもこの普通預金は、被告人に帰属するものと認定され、被告人の資産の部に計上されたが、これは事実の誤認である。

(2) 妻美智子からの借入金について。

被告人は万博開催前から無職であつて収入はなく、万博会場内で営業を行うための開店準備資金は、妻美智子の営業利益金のうちから昭和四四年度中に四〇〇万円、昭和四五年度中に八四七万円、合計一、二四七万円を借入れたのであつて、被告人が昭和四四年度末において手持現金四九〇万円を保有していたことは、右四〇〇万円の借入金を考慮せずには算定できないものである。

そうだとすれば、右昭和四四年度および昭和四五年度中妻からの借入金は、負債の部に計上すべきであるのに、一審並に原審は、いずれも負債の部に計上しなかつた。

なるほど、被告人の国税局の質問てん末書には、妻美智子から借入れたことの記載はない。

しかし、それは、被告人は国税局から査察を受け、大変なシヨツクを受けたため、告発を免れたい一心で取調官に迎合する供述をしたことによるものであり、また、他方、被告人は資産増減法による課税所得金額の算定方式につき、全く予備知識を持つていなかつたため、問題のポイントを掴むことができず、適切な供述をなし得なかつたことによるものである。

それ故、検察庁へ告発されてから後の検察官の取調に対しては、妻美智子から一千万円以上借入れたことを供述し、(昭和四九年三月一〇日被告人の検察官に対する供述調書)一審並に原審公判廷においても被告人は同旨の供述をした。

被告人は検察庁での取調を受けたとき、前記のとおり妻美智子から一千万円以上の借入れをしたことを供述しておるのに、なぜか検察官は美智子の取調をしなかつた。

このことは、検察官の一方的な取調というべきである。

然るに一審並に原審は、被告人が国税局の取調の段階で、妻から借入れたことを供述していないことを理由の一に加えて、被告人の検察庁並に公判廷における供述の信用性の有無を判断されているが、これは明らかに条理に反する。

(3) 割引債券について。

万博会場内で、二人の行商人が万博協会の許可を受けないで行商をするにあたり、被告人に対し、売上金の中から口銭を払うから、場外売を認めてくれるよう頼むので、話合いの結果、被告人は、行商人の売上金を一応預かり、その中から二割の口銭を差引いて残額を返へすことを条件に場外売を認めたところ、後になつて行商人は、売上をごまかしたことがあつたので被告人は預かつていた売上金五〇〇万円を相手に返へさなかつた。

然し事件が解決したときは、返へさなければならない性質のものであるから、被告人は後日の返済は当てるため割引債券を買つた。

この件は後日解決し、昭和四六年一〇月、被告人は割引債券を解約して買掛金の支払に当てたことがある。(被告人の昭和四九年三月七日検察官調書、および一審、原審公判廷における供述)

この関係からすると、資産の部に四七一万九、五〇〇円を計上し、これは買掛金の引当となるので負債の部に買掛金として同額を計上すべきである。

然るに一審並に原審は、資産の部に割引債券を計上しながら、負債の部に買掛金を計上しなかつたが、これは会計法則に違反するものである。

二、原審は被告人に逋脱の犯意を認められた。

然しながら、被告人が万博協会の指定外銀行に入金したのは、被告人が福徳生野支店から融資を受ける際の条件に従つてやむなくそうしたものである。

また、同支店における仮名定期預金の設定は、被告人不和の間にそのように行はれたものであつて、被告の関知しないところである。

本件は、単純な過少申告であるのに一審並に原審が被告人に逋脱の犯意を認めたのは事実の誤認である。

三、原判決には右に述べたような判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、また、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反することになる。

よつて上告審におかれては、原判決を破棄されるを相当と思料する。 以上

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